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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)1944号 判決

原告

右代表者法務大臣

井野碩哉

右指定代理人大阪法務局訟務部長

今井文雄

大阪法務局法務事務官 原矢八

大阪国税局大蔵事務官 馬場正夫

同 西村秀夫

同 荒木賢三

大阪市北区川崎町一四番地

被告

蔦屋製菓株式会社

右代表者代表取締役

宮崎勝美

大阪市北区川崎町一四番地

被告

蔦屋幸三郎

右被告両名訴訟代理人弁護士

古野周蔵

右被告両名訴訟復代理人弁護士

古野徹子

赤木文生

右当事者間の昭和三二年(ワ)第一、九九四号詐害行為取消請求事件について、当裁判所は次の通り判決する。

主文

訴外蔦屋製糖株式会社が、被告蔦屋製菓株式会社との間に、昭和三一年一〇月一五日なした別紙第四目録の一二記載の各物件の売買契約は之を取消す。

被告蔦屋製菓株式会社は、訴外蔦屋製糖株式会社に対し、別紙第四目録の一、二記載の各物件につき、大阪法務局北出張所昭和三二年六月四日受付第一〇、七七八号を以てなした同年五月二四日大阪地方裁判所詐害行為取消訴状送達を原因とする訴外蔦屋製糖株式会社のための請求権保全仮登記に基ずく本登記手続をせよ。

原告のその余の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告蔦屋幸三郎との間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告蔦屋製菓株式会社との間に生じた分は之を二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告蔦屋製菓株式会社の負担とする。

事実

原告指定代理人は、「訴外蔦屋製糖株式会社が昭和三一年三月五日別紙第一目録記載の各物件につき、被告蔦屋幸三郎との間になした代物弁済契約は之を取消す。訴外蔦屋製糖株式会社が被告蔦屋製菓株式会社との間になした、(1)昭和三一年三月二日別紙第二目録記載の各電話加入権の譲渡、(2)同月八日別紙第三目録記載の各物件の売買、(3)同年五月七日別紙第四目録の三記載の物件の売買、(4)同年一〇月一五日別紙第四目録の一、二記載の各物件の売買は何れも之を取消す。被告蔦屋幸三郎は、原告に対し、金四六九、〇〇〇円及び之に対する本訴状送達の翌日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告蔦屋製菓株式会社は訴外蔦屋製糖株式会社に対し、別紙第二目録記載の各電話加入権の譲渡承認請求手続をなせ。被告蔦屋製菓株式会社は訴外蔦屋製糖株式会社に対し、別紙第四目録記載の各物件につき、大阪法務局北出張所昭和三二年六月四日受付第一〇、七七八号を以てなした同年五月一四日、大阪地方被判所詐害行為取消訴状送達を原因とする訴外蔦屋製糖株式会社のための請求権保全仮登記に基ずく本登記手続をなせ。被告蔦屋製菓株式会社は、原告に対し、別紙第三目録記載の物件を引渡せ。訴訟費用は被告両名の負担とする」との判決並びに金員の支払及び物件の引渡を命ずる部分について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「訴外蔦屋製糖株式会社(訴外会社と略称する)は、別表第一記載の通り既に納期の到来した法人税及び之に対する過少申告加算税、延滞加算税合計金八、一五〇、六二〇円を滞納しているものである。右訴外会社は、別表第二記載の滞納税合計金七、三八〇、一二〇円についての滞納処分による差押を免れるため、故意に、

(1)  昭和三一年三月二日、被告蔦屋製菓株式会社(被告会社と略称する)に別紙第二目録記載の各電話加入権を譲渡し、同日その旨の加入名義の書換えをなし、

(2)  同月五日、被告蔦屋幸三郎に、別紙第一目録記載の各物件を右訴外会社が同被告に対して有する金五二一、七六九円の債務の代物弁済として譲渡し、

(3)  同月八日、別紙第三目録記載の各物件を、被告会社に、代金合計金一、八五六、〇三四円で売渡し、

(4)  同年五月七日、被告会社に、別紙第四目録の三記載の物件を代金二、三二七、八八九円で売渡し、同月八日、その旨の所有権移転登記をなし、

(5)  同年一〇月一五日、被告会社に対し、別紙第四目録の一、二記載の各物件を代金合計金五、七八〇、六〇〇円で売渡し、同月一六日その旨の所有権移転登記をなし、

たのである。そのほか、右訴外会社は、昭和三一年三月八日、同会社の製菓事業用の原材料、半製品、及び製品の全部(価格金一、八五五、〇三四円相当)を被告会社に売却したため、その資産は僅かに製糖用機械(価格金一、〇〇〇、〇〇〇円相当)を残すのみとなつた。よつて、原告は前記各譲渡行為当時の滞納税金のうち、右訴外会社の資産である製糖用機械の価格相当額一、〇〇〇、〇〇〇円を控除した残金六、三八〇、一二〇円の徴収のため、国税徴収法一五条に基ずいて、右訴外会社と被告等の間の前記各譲渡行為を取消し、別紙第一目録記載の各物件は既に滅失してその取戻しができないから、被告蔦屋幸三郎に対し、右物件の価格相当額である金四六九、〇〇〇円の賠償と、之に対する本訴状送達の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、又、被告会社に対し、別紙第二目録記載の各電話加入権の右訴外会社への譲渡承認請求手続と別紙第三目録記載の物件の引渡し及び別紙第四目録記載の物件については、原告が、大阪地方被判所に、本訴状送達を原因とし、右訴外会社を権利者とする所有権移転請求権保全のための仮登記仮処分命令を申請し、同裁判所のなしたその旨の仮処分命令により、大阪法務局北出張所昭和三二年六月四日、受付第一〇七七八号を以て請求権保全の仮登記をなしたので、右仮登記に基ずく本登記手続を夫々求めるため本訴に及んだものである。」と述べ、被告等主張事実を否認し、立証として、甲第一、第二号証の各一乃至三、第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証、第七号証の一乃至三、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証第一一号証の一、二を提出し、証人岡田貞男同松田敬治の各訊問を求め、乙号各証の成立を認めた。

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張事実のうちで、訴外会社が、被告会社に、昭和三一年三月二日、別紙第二目録記載の各電話加入権を譲渡し、同日その旨の加入名義の書換えをなし、同月八日別紙第三目録記載の各物件を代金合計金一、八五六、〇三四円で売渡し、同年五月七日、別紙第四目録記載の物件を代金二、三二七、八八九円で売渡し、同月八日、その旨の所有権移転登記をなし、同年一〇月一五日、別紙第四目録の一、二記載の各物件を代金合計金五、七八〇、六〇〇円で売渡し、同月一六日、その旨の所有権移転登記をなした事実及び別紙第四目録記載の物件について、原告が大阪地方裁判所に、本訴状送達を原因とし、訴外会社を権利者とする所有権移転請求権保全のための仮登記仮処分命令を申請し同裁判所のなしたその旨の仮登記処分命令により、大阪法務局北出張所昭和三二年六月四日受付第一〇、七七八号を以て請求権保全の仮登記をなしたことは何れも之を認めるが、訴外会社が昭和三一年三月五日被告蔦屋幸三郎に、別紙第一目録記載の各物件を訴外会社が同被告に対して有する金五二一、七六九円の債務の代物弁済として譲渡した事実及び前記各議渡は訴外会社が滞納処分による差押を免れるため故意になしたものであるとの事実を否認する。爾余の事実は不知である。訴外会社は、製糖部門と製菓部門を兼業していたが、業績不良のさい、昭和三一年二月、農林省より輸入粗糖の割当が削減され、現状に於ては業務廃止もやむなき窮状に追込まれ、之を生活の脅威として不安がる多数の従業員の切なる要請もあつて、製糖部門と製菓部門を各独立させることとし、昭和三一年三月、被告会社が設立されたのである。その設立資金は従業員の訴外会社よりの退職金及び出賃金を以てまかなわれ、現実に払込まれたが、右設立の趣旨に鑑み、訴外会社に於て従来より製菓事業に使用してきた第二乃至第四目録記載の工場設備、機械仕器、備品等を被告会社が買入れることになつたのである。しかし、資金のすべてを設備費に投入すれば、運転資金に困難を来すので、その代金支払方法は相当長期の分割弁済の方法を採らざるを得なかつた。又譲渡金額の決定についても、不動産は固定資産課税台帳に記載された評価額と帳簿価額を勘案し、機械類は鑑定人に評価させたのである。訴外会社の右各譲渡物件の代金の回収は相当長期にわたることとなつたが、被告会社に対する債権として残るのであるから、右譲渡によつて訴外会社が直ちに無資力となつたとはいえないし、訴外会社の代表取締役蔦屋幸三郎は若し法人税が支払えないときは、同人の個人財産を担保として、他より融資を仰ぎ、その支払に充当する心算であつたのである。従つて前記各物件の譲渡は、訴外会社が滞納処分による差押を免れるため故意になしたものではない。かりに、右譲渡行為が詐害行為であるとしても、被告会社代表取締役宮崎勝美は、被告会社設立当時、訴外会社が税金問題について調査を受けていることは知つていたが、訴外会社代表者蔦屋幸三郎から、右税金については、訴外会社に於て一切責任をとり、被告会社に迷惑をかけないと言われたので、それを信じて資金を投入して、被告会社の設立に着手し、右各物件を譲り受けたのであつて、差押を免れるための譲渡であるというような事情は知らなかつたのである。かりに右主張が理由がないとしても、詐害行為取消の範囲は債権額を限度とするから、右譲渡行為のすべてを取消すことは不当である」と述べ、立証として、乙第一、第二号証、第三号証の一、二第四号証の一乃至三、第五号証、第六号証の一乃至三を提出し、証人中野真一、被告本人蔦屋幸三郎、被告会社代表者宮崎勝美の各訊問を求め、甲号各証の成立を認めた。

理由

訴外会社が被告会社に

(1)昭和三一年三月二日、別紙第二目録記載の各電話加入権を譲渡し、同日、その旨の加入名義の書換をなし、

(2)同月八日、別紙第三目録記載の各物件を、代金合計一、八五六、〇三四円で売渡し、

(3)同年五月七日、別紙第四目録の三記載の物件を代金二、三二七、八八九円で売渡し、同月八日、その旨の所有権移転登記をなし、

(4)同年一〇月一五日、別紙第四目録の一、二記載の各物件を、代金合計金五、七八〇、六〇〇円で売渡し、同月一六日、その旨の所有権移転登記をなし

たことは当事者間に争がない。又成立に争のない甲第三号証、同第四号証の一、二、同第五号証の記載を綜合すると

(5)訴外会社は、被告蔦屋幸三郎に、別紙第一目録記載の各物件を、訴外会社が同被告に対して有する金五二一、七六九円の債務の代物弁済として譲渡した事実が認められ、右認定に反する被告本人蔦屋幸三郎の証言及び、乙第一、二号証の記載は措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。そして、成立に争のない甲第一号証の一乃至三及び証人岡田貞男の証言によると、訴外会社は、昭和三一年三月二日現在に於て別表第二記載の通り昭和三一年度法人税合計金七、三八〇、一二〇円の租税(国税)を滞納していたものであり、且つ、昭和三二年四月三〇日現在に於て別表第一記載の通り前記年度の法人税合計金八、一五〇、六二〇円の租税を滞納していることが認められるのである。従つて、訴外会社の前記(1)乃至(5)の各譲渡行為当時に於ては、原告は訴外会社に対し、少くとも昭和三一年度法人税として、前記金七、三八〇、一二〇円の祖税債権を有していたものといわなければならない。

次に、訴外会社の前記各行為当時に於ける資産額について検討する。成立に争のない甲第四号証の一、二、同第七号証の一乃至三同第八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証及び乙第三号証の二並びに証人松田敬治の証言を綜合すると、前記(1)の物件の価格は時価金一三五、〇〇〇円、同(5)の物件の時価は金四八五、五〇〇円(一の物件は時価金一一五、五〇〇円、(二)の物件は時価金三七〇、〇〇〇円)、同(2)の物件は時価金二、〇六二、二六〇円、同(3)の物件は時価金三、五〇一、四〇〇円、同(4)の物件は時価金六、〇二四、六〇〇円であることが何れも認められるのである。

又、成立に争のない甲第二号証の一乃至三、同第六号証、同第一一号証の一二、同第五号証の記載及び証人松田敬治同岡田貞男の各証言を綜合すると、訴外会社は前記(1)の物件の譲渡当時、前記(1)乃至(5)の各物件を所有していたが他に格別の資産もなく、これらの物件の譲渡により、滞納処分により差押をなした際には僅か時価一、二七二、四五〇円の製糖用機械等の動産を残すのみとなつていたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

それ故、前記(1)乃至(5)の各物件と前記差押時に訴外会社に残存していた前記動産の各時価を合計すると、金一五、二五〇、五七〇円となり、訴外会社に残存していた前記動産の時価を控除するときは、訴外会社の前記(4)の行為は原告の前記租税債権を害すること勿論であるが、前記(3)の行為は、前記租税債権中金八三、〇七〇円の限度に於て之を害することとなるが、右(3)の行為中右金額を超える部分及び前記(1)(2)及び(5)の各行為は、原告の前記租税債権を害しないことが明らかである。

尤も、証人岡田貞男の証言及び被告本人蔦屋幸三郎の供述を綜合すると、前記(3)の行為当時に於ては、大阪国税局査察課に於て訴外会社の脱税の調査中であり、訴外会社の代表取締役であつた右蔦屋幸三郎は、金三、〇〇〇、〇〇〇円乃至四、〇〇〇、〇〇〇円の更正処分を受けるものと思つていたことが何れも認められるのであつて、右事実と既に認定した通り、前記(4)の物件の時価が金六、〇二四、六〇〇円であり、前記差押時に訴外会社に残存していた前記動産の時価が金一、二七三、四五〇円である事実とをあわせ考えると訴外会社は右(3)の行為のさい、原告の前記租税債権を害する意思はなかつたものと認めるのが相当であり、右認定を左右する証拠はない。

しかし、前記(4)の行為当時に於ては、右(4)の物件と、前記差押当時に残存していた動産のほかに格別の資産がなかつたことは既に認定したところであり、成立に争のない甲第五号証の記載と、被告本人蔦屋幸三郎の供述の一部(後記措信しない部分を除く)によると、訴外会社の代表取締役であつた右蔦屋幸三郎は右事実を知つていたし、右(4)の譲渡によつて、国税の徴収に支障を来すことを熱知していたことが認められるのであつて、これらの事実と、右各物件の時価が既に認定した通り、(4)の物件については金六、〇二四、六〇〇円、前記差押のとき残存していた動産については金一、二七三、四五〇円である事実とをあわせ考えると、右(4)の行為は、訴外会社が財産の差押を免れるため、故意に之をなしたものと認めるのが相当であり、被告本人菓屋幸三郎の供述中、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

ところで、被告会社代表者宮崎勝美は、訴外会社は製糖部門と製菓部門とを兼果していたが、業績不良のさい、昭和三一年二月農林省より輸入粗糖の割当が削減され、現状に於ては業務廃止もやむなき窮状に追込まれ、之を生活の脅威として不安がる多数の従業員の切なる要請もあつて、製糖部門と製菓部門とを各独立させることとし、昭和一三年三月、被告会社が設立されたのであつて、その当時、訴外会社が税金問題について調査を受けていることは知つていたが、訴外会社代表者蔦屋幸三郎から、右税金については訴外会社に於て一切責任をとり、被告会社に迷惑をかけないと言われたので、それを信じて、資金を投入して、被告会社の設立に着手し、右各物件を譲り受けたのであつて、差押を免れるための譲渡であるというような事情は知らなかつた旨を主張し、被告会社代表者宮崎勝美の供述中には之にそう部分もあるが、これらは成立に争のない甲第五号証の記載にてらして措信し難く他に右事実を認めるに足る証拠はないから右主張は採用することができない。

尚、被告会社は、被告会社への右各物件の譲渡は相当の価額でなされたものであり、且つその代金は債権として残存しているから、右譲渡により訴外会社は直ちに無資力となるものではないと主張しているが、たとえ右事実が認められるとしても、右事実のみをもつては右詐害行為の成立を妨げるものではない。

而して、成立に争のない甲第一号証の三、同第一一号証の一、二によれば、訴外会社に対して前記法人税について滞納処分の執行がなされたこと及び、当審の最終口頭弁論時に於て、訴外会社が前記法人税七、九〇三、八一〇円を滞納していることが認められると共に、訴外会社が前記行為当時以後に於て財産の増加を来したことについては被告会社に於て主張立証をなさないから、原告は訴外会社と被告会社との間の前記(4)の行為の取消を求めうるが、爾余の各行為については、その取消を求め得ないものというべきである。そして、別紙第四目録の一、二記載の物件について、原告が大阪地方裁判所に本訴状送達を原因として、訴外会社を権利者とする所有権移転請求権保全の仮登記仮処分命令を申請し、同裁判所のなしたその旨の仮登記仮処分命令により、大阪法務局北出張所昭和三二年六月四日受付第一〇七七八号を以て、請求権保全の仮登記をなしたことは当事者間に争がないから、原告は、被告会社に対し、右物件について、右仮登記に基ずく本登記手続を求める権利があるものというべきである。

尚、訴外会社と被告蔦屋幸三郎との間の前記(5)の行為、訴外会社と被告会社との間の前記(1)(2)(3)の各行為の取消を求める原告の本訴請求が失当であることは前記認定の通りであるから、その取消されることを前提として、被告蔦屋幸三郎に対し金員の支払を被告会社に対し、別紙第二目録記載の各電話加入権の譲渡承認請求手続及び別紙第三目録記載の物件の引渡を求める本訴請求は失当として棄却すべきものといわねばならない。

尤も、国税徴収法一五条には、「滞納処分ヲ執行スルニ当リ滞納者財産ノ差押ヲ免ルル為故意ニソノ財産ヲ譲渡シタル場合ニ於テ政府ハ其ノ行為ノ取消ヲ求ムルコトヲ得」と定められ、同法施行規則三一条ノ六には「国税徴収法ノ規定(同法第四条ノ六第二項、第二十四条第二項、第二十七条及第三十一条ノ六第一項ヲ除ク)中政府トアルハ第二十一条ノ二ノ場合ニ在リテハ国税庁長官、国税局長、税務署長及税関長トシ其ノ他ノ場合ニ在リテハ納税人又ハ滞納者ノ納税地ノ所轄税務署長又ハ税関長トス」と定められているが、前記祖税債権を有するのは国であつて、税務署長ではなく、前記法条も、国の債権につき、税務署長が独立に取消の訴を提起しうることを定めた趣旨であるとは解し難いし、国の利害に関係ある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律一条によれば、国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が国を代表する旨を定められているのであつて、前記国税徴収法及び同法施行規則の規定が特に国税徴収法一五条による訴訟について、法務大臣に代表権限がない旨を定めた趣旨であるとも解し難いから、本訴に於て国は原告としての適格を有し、且つ法務大臣は国を代表する権限を有するものというべきである。

よつて、原告の被告会社に対する本訴請求中前記の行為の取消と、別紙第四目録の一、二記載の各物件に対する所有権移転の本登記手続を求める部分を何れも正当として認容し、被告会社に対する爾余の部分及び被告蔦屋幸三郎に対する本訴各請求は何れも失当として之を棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 入江菊之助 裁判官 白井美則 裁判官 弓削孟)

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